もしも自作品のキャラがこうだったら?
という、本編とはまったく関係ない、私自身の妄想を炸裂させるショートストーリー仕立てのコーナーです。
現在書いている話があまりにも糖分過多なので、デトックス効果を期待して設立しました。塩分と辛味には耐性あるのに、糖分にはまだ勝てない……っ!
さて、記念すべき第一回目の妄想の餌食は誰にしましょうか。
ここはやはり、現在進行形の黄色の花の物語・小説版から。
どうぞ、私得の仮想世界をお楽しみください。
【天然色な二人】
突き抜けるような青空に鳥の鳴き声が響く、心地好い朝。
宿の主人から借りた厨房に昨晩買っておいた食材を並べ、レクセルは首を捻った。
「オーリは何を食べるんでしょうか」
一ヶ月もの間眠っていた怪我人に何を出せば良いのか、改めて考えると、いろんな面で難しい。
まず、固形物や生野菜は消化に悪い。
脂が多い肉料理も、身体がびっくりしてしまうから当面は却下。
具材を控えめにしたスープがベストと言えばベストだが、なにせ一ヶ月も飲まず食わずで眠り続けていた訳で。
味付けの問題上どうしても塩分が多めになってしまうスープでは、あまり身体に良くはない。薄味にしても、物足りなさで飲みすぎになってしまったら結局は同じ。
「固形物以外で、それなりにお腹を満たす薄味の料理、か」
並べた食材を一つ一つ手に取って、いろんな角度から見る。
表面がテカテカ光る真っ赤な林檎に、青々とした葉物類、乾いた土が付着している根菜類、自分用に買っておいた鶏の卵と、燻製された豚の肉。
「……苦手な物はあるのかな。聞いておけば良かった」
人にはそれぞれ、稀にだが相性が悪い食材がある。
食べると身体がかゆくなったり、皮膚に異常が出たり、最悪の場合は死んでしまうらしい。
幸いにもレクセルの周りにそうした実例は無かったが、昔読んだ医学書には、食物の摂取で死亡する例は決して少なくないと明記されていた。
昨日まで食べていた物が急に食べられなくなった、という話も聞く。
これが体質や体調の変化に関係しているのだとしたら、一ヶ月熟睡していたオーリィードにも、食べられない食材があるかも知れない。
「林檎なら、よっぽど大丈夫ですよね」
しばし悩んだ後、レクセルは林檎と包丁を持ち直してショリショリと皮を剥き始めた。
「なんだそれ」
ベッドに横たわっていたオーリィードが、部屋に入ってきたレクセルの手元を見てギョッとする。
「貴女の朝食です。林檎なら食べられそうかと思いまして」
「……林檎?」
「はい」
「まさか、それ全部が林檎?」
「はい」
唖然とするオーリィードの横、サイドテーブルの上に、林檎を乗せた銀色のトレーがどっかんと大きな音を立てて置かれる。
「テーブルがちょっと小さいですね」
「いやいやいや、おま……それ何人分だよ!?」
「一人分ですが、少なかったですか?」
キョトンとした顔で首を傾げるレクセルの両腕が支えているのは、大の成人男性が一人座れそうな大きさのトレー。その上には、手のひらサイズのお椀が絶妙なバランスで山のように積まれている。
今は横向きに立っているから見えるが、部屋に入ってきた時、レクセルの上半身は頭の天辺までお椀の山に隠れていた。
「多いよ! 明らかに多すぎるよ! これで少ないとか、誰基準の一人分なワケ!?」
「大半はすりおろしてあるので、多すぎることはないと思いますが……。父や兄が調子を崩した時はこのくらいでしたし、元騎士ならこれが普通なのかと」
レクセルは純度が高い文化人だ。
武器を持った経験はあるが、それよりもペンを握っていた時間のほうが遥かに長い。
職業によって必要なエネルギーの量が違うことも解っているので、身近な人間を手本にしてみたのだが。
「貴女は兄より少ないんでしょうか?」
見当違いだったのかと瞬くレクセルに、しかしオーリィードはすみれ色の目を吊り上げて反論する。
「全っ然、足らない! 二倍は欲しい!」
「二倍ですか? ですが、さっきは」
「私がアイツより少ないなんて、絶対にありえない! もっと寄越せ! 全部食ってやる!!」
オーリィードの負けず嫌いは健在だった。
「はあ……あ、食べられる分には食べていただいて構いませんが、ゆっくりよく噛んでくださいね。こちらのほうが前菜仕立てで、こちらのほうが冷製スープ仕立て、こちらが」
「って、フルコースかよ!?」
おしまい。
レクセルは世間知らずなところがあるので、こういう事を普通にやりそうです。
残った料理は宿の主人と従業員が美味しくいただきました。